そこは、人も物語も再生する本屋さん
小説編集の仕事をビジネスと割り切れない、若手編集者の宮本章は、新人作家・広川蒼汰の作品を書籍化できず、責任を感じ退職する。ちょうどその頃、北海道で書店を経営していた祖父が亡くなり、章はその大正時代の洋館を改装した書店・ミュゲ書房をなりゆきで継ぐことに……。
失意の章は、本に関する膨大な知識を持つ高校生・永瀬桃ら、ミュゲ書房に集まる人々との出会いの中で、さらに彼のもとに持ち込まれた二つの書籍編集の仕事の中で、次第に本づくりの情熱を取り戻していく。そして彼が潰してしまった作家・広川蒼汰は――。
挫折を味わった編集者は書店主となり、そしてまた編集者として再起する。本に携わる人々と、彼らの想いを描いたお仕事エンターテインメント。
本に関わるお仕事物としてとても面白かった。
作家、編集者、出版社、装丁・装画家、印刷、流通、書店、書店員、顧客と本の作成過程の一通りの仕事について触れられていて興味深く読めた。
主人公は元編集者で祖父の書店を継ぎ、その書店から出版も行うようになる。北海道の田舎町での書店経営は難しいが、それを支える周囲の人々は暖かい。過疎化の進む町に優秀な人材が揃いすぎだというところは確かにあるが、ぶっ飛んだところはないしバランスはとれていて、物語進行上の都合として受け入れやすかった。
とある登場人物が敵対心を抱いている相手に対して親切であることもちゃんと理由が説明されていた。主人公しか見えていない作者だと、脇役が性格と矛盾した言動をすることがよくあるが、本作ではそういう細かいところにも目が配られていた印象だ。
本の装丁も紙の質感がよかった。
よくなかったところを挙げると、カクヨムで連載していったときの名残だろうが、各章が短いうえにその都度章タイトルが挟まれるのが鬱陶しかった。しかも、タイトルでネタバレしてくる。これは書籍化するときに変えられなかったのか。
カクヨムには実際の書籍化の流れの話も追加されていてそちらも一読の価値があった。
https://kakuyomu.jp/works/16816452218677318232
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