三上延『同潤会代官山アパートメント』

読書

同潤会代官山アパートに住む家族を描いた連作短編集。
昭和初期から物語は始まり、約10年ごとに一話ずつ進み、祖父母から曾孫へ4世代にわたって描かれる。

昭和から平成まで、戦争や災害を経験しながらも家族を支えにして生きていく人たちの姿が温かい。
巻末の参考文献から察するに、実在する同潤会アパートや時代背景についてかなり取材を重ねたようで、それぞれの時代にはリアルさがある。
その時代背景に合わせた人物の描き方も見事で、戦争の時代には物語に重苦しさがあるのに対し、戦後の孫の代になると現代にかなり近い普通の学生の日常だ。
時代ごとに空気感が変わる書き分けがうまい。

実は一章の「月の沙漠を」は『この部屋で君と』というアンソロジー短編集で読んだことがあり、その時も面白かったと感想を記している。
初出を見ると二章目以降が発表されるまでには時間が空いていたようなので、一章の出来が良かったから長編化したような形だろうか?

私は家族愛をそれほど強く感じる経験がなかったので、あまり家族小説に共感したり気に入るということがなかったのだが、初めて家族小説を好きになれた。


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