久永実木彦『七十四秒の旋律と孤独』

読書

宇宙船を警備する人工知性紅葉の葛藤と、宇宙空間で物体がワープする際に生じる、空白の七十四秒間の事件を描いた第八回創元SF短編賞受賞作「七十四秒の旋律と孤独」をはじめ、人類が滅亡したあとの宇宙で、ヒトの遺した教えと掟に従って宇宙を観測し続けるロボットたちの日々を綴る連作〈マフ クロニクル〉の全六編を収録。永遠の時を生きる美しいロボットたちと、創造主である人間をめぐる鮮烈なデビュー作品集。

 人間が日常的に宇宙を航海するようになった未来、「空間めくり」というワープ航法が一般的になっていた。当初ワープは一瞬のことと思われていたが、じつはその間には74秒の空白時間があり、人間はその時間を知覚することはできず静止してしまうことが明らかになった。そしてその空白時間を狙って、空白時間でも活動可能な「マ・フ」と呼ばれるロボットをけしかける宇宙海賊が横行した。その対抗策として、各宇宙船にもマ・フが警備用に配備されることとなった。
 本作では冒頭にこの世界観を説明するような短編が一つ収録されており、そのあとからは「マ・フ・クロニクル」という長編が始まる。人間たちが滅んだ未来、マ・フたちは残された命令に従って宇宙の探索を続けており、主人公となるマ・フのナサニエルたちはとある惑星での観測任務にあたっていた。彼らは人間が残したアーカイブに則り、惑星の生態系への不干渉や特別なものを生み出さないことを原則に長いこと観測だけを続けていた。しかし、ある時生きた人間を発見したことにより、彼らの生活は一変することとなる。

 マ・フはロボットではあるが、画一的な思考を持つものではなく、各マ・フは個別に思考し個体差がある。はじめは特別なものを生み出さないために個体差を排除しようとするマ・フたちだが、人間との交流から個体差が大きくなり、自我が確立していく。
 長いこと観測者であったマ・フたちには人間がどう見えるのか、自我を獲得したマ・フたちはそれぞれどういう道を歩むのか。


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