松崎有理『イヴの末裔たちの明日』

読書

究極の選択を前にしたとき、人間はその魂を試される――さまざまな“究極”の場面に遭遇した人々がそれぞれ選びとる未来の物語。長く未解決だった数学予想の証明に取り憑かれた青年と、暗号解読に人生のすべてを捧げた冒険者の行く末を追う「ひとを惹きつけてやまないもの」、自分は未来人だと主張し、材料も資料も足りない刑務所内で未来に帰るためのタイムマシン製造に勤しむ受刑者の哀しい決断「未来への脱獄」など全5編。

「未来への脱獄」☆☆☆
主人公が収容された刑務所の同じ房には未来人を自称する男がいた。ある日、その男がタイムマシンを設計している事実を知り、主人公は制作に協力し未来への脱獄を計画する。
男は未来を変えるために過去を変えに来たので、この作品では過去を変えると並行世界が生まれるのではなく、時間軸は一つで過去を変えると未来が上書きされる設定だと思われる。
しかし、最後の「壁の数字1をみつけた自分、2をみつけた自分……」という記述は並行世界の存在に触れているようだ。
男が過去に戻るたびに未来は上書きされていくので1をみつけた自分も2をみつけた自分もいないことになっていくと思うのだが、どういう時間軸の捉え方をしているのだろうか?

「ひとを惹きつけてやまないもの」☆☆☆☆
19世紀のトレジャーハンターと、ビール予想という難問に挑む21世紀の数学者の物語が交互に語られる。それぞれの謎を追う男たちはどういう結末を迎えるのか。
実在する難問とリアルな数学者像がよかったが、何より途中で物語の方向が全く変わってしまうインパクトがすごかった。ギャグマンガのような突然の方向転換にはじめは戸惑うのだが、その先の展開でも数学者の生きざまが見えてくるのがおもしろい。

「イヴの末裔たちの明日」☆☆☆
AI技術の発展により、人間の技術的失業が始まった世界。主人公は事務の仕事を失い、生活費を稼ぐために治験バイトに応募する。投与される薬は確率薬理学によるもので、人間の「運」に作用するものらしい。

「まごうかたなき」☆☆
突如現れた魔物を討伐するために、1人の役人と1人の囚人、そこに4人の村人が志願して旅立った。
著者は「ひとを惹きつけてやまないもの」を代表に、物語の始まりからは想像できないような展開を描くことが多いようだが、この作品も同様。魔物を討伐するはずが、各人にはそれぞれの思惑がある。方向転換は面白いのだがちょっと虚しい物語すぎた。

「方舟の座席」☆☆☆
地球滅亡の危機から逃れるために、世界の富豪たちは宇宙船で地球を脱出していた。そこに、富豪ではない普通の女子大生である麗が乗せられていた。それは孤児であった麗を援助していたあしながおじさんによるものだったが、彼にはある思惑があった。
「ひとを惹きつけてやまないもの」と繋がりのある作品だが、こちらの作品にはあまり深みがないので不釣り合いのように感じてしまった。

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