白河三兎『私を知らないで』

読書

この小説に書かれているのは何か?
家族か、恋愛か、青春?
成長、共感、嫉妬、孤独、愛情、友情、希望、絶望?
全部だ。

20の章に細かく分けられた物語は、その一つ一つが起承転結の立ったエピソードで成っており、メッセージ性もある。
エピソード同士は深くかかわって、ある出来事の伏線になって、読者に先を読ませない展開を生む。
これは白川三兎の作品に共通する構成力だ。

しかし構成力ばかりほめても仕方がない。
ストーリーが面白い。
クラスから無視されているキヨコと、転校生のシンペーの交流。
こういうあらすじで端的に伝えるのが難しいほどいろいろ起こる。

キヨコの抱える秘密には途中で気づいてしまうかもしれないが、いつ訪れるかもしれない「その時」にハラハラしながら読み進めることになる。
秘密に気付かなかった場合は、エピソードの落差に驚愕することだろう。
山があって谷があって、とにかく揺さぶられる。

それほどのめりこんでしまうくらい、印象的なシーンが多い。
とはいえ、やはりピークは魔女の宅急便を真似るところだろう。
ツンツンしたキヨコがとあんなかわいい一面を見せてくれるとは。

それが影響するラストもいい。
普通の生活のために感情を抑える。
切ないとしか言いようがない。
いやあやはりラストだね一番は。

本当に物語が作りこまれていて、ご都合主義に見えるところもちゃんと理由付けがなされている。

たとえば、ラストに向けてはシンペーの生い立ちやアヤの功績が影響している。
アヤはシンペーと別れても、彼に後押しされたことを支えにして頑張ったんだろうな。
とすると、シンペーが親を後押ししたともいえる。

いじめ問題の解決にしても、ミータンはもともと友達思いのやつなのだ。
金原瑞人の解説にもあるが、「登場人物たちの多くが、見たままではなく、本人が思っているままでもない」のだ。
キヨコにも原因はあったし、暴行を加えたわけでもない。
比較的受け入れやすい解決ではないか。

キヨコのシンペーと高野に対する態度には終始悶々とさせられたが、ラストに影響してくるとは。
恋とはやはりままならないものだと思った。

振り回されるのが醍醐味の一つだから、あまり細かく書けないのが歯がゆい。
面白い小説に限ってうまく言葉で表せない自分の文章力も悔しい。
でもたくさんの人に読んでほしい小説だ。

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